社会保険労務士 五藤事務所

                               労災保険の活用

ほとんどの労働者は仕事中や通勤途中のケガ・病気について労災保険の補償を受けることができることは説明しました。では、具体的にどこまでが「仕事中」・「通勤途中」なのか、また、労災保険の補償とはいかなるものか、詳細に見ていきます。
@ 「仕事中」とは
労働者が仕事中に負ったケガや発生した病気、死亡等を「
業務災害」と呼びます。
この業務災害と認められるためには、「
業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たすことが必要です。
1、業務遂行性
業務遂行性とは、労働契約に基づいて、
労働者が事業主の支配下にある状態を言い、作業中、作業中断中、出張中等の状態が該当します。

2、業務起因性
業務起因性とは、業務に起因して災害が発生し、その災害が原因となって傷病が発生したと言う、
業務と傷病等の間に相当因果関係が認められることを指します。

3、実際の労災認定基準
どこまでの災害が業務災害として認定されるかは、案件により異なります。例えば、同じ「作業に伴う必要行為中」の災害であっても、
自動車修理工が、定休日に提示出勤し故障者の修理をした。定休日のため運転手が不在であり、日直職員の許可を得て無免許にもかかわらず車を運転し、道路下に転落、死亡。 電機修理工が他事業の顔見知りの労働者の作業を手伝っている途中、災害が発生し死亡。
業務災害である(昭23.1.15基発51号) 業務災害ではない(昭23.6.24基収2008号)
というように、その場の状況により認定の可否が異なります。所定労働時間中に発生した災害が全て業務災害に該当するというわけではないのです。
仕事中に災害に遭ってしまった場合であっても、労働基準監督署の労災認定が下りないことはままあることです。特に精神疾患の場合は労災認定を受けることは至難の業です。しかし、一度労災認定申請が却下されても、労働保険審査会への審査請求により再度審査してもらえるよう道が開けています。当事務所にご相談いただければ、労働基準監督署への労災申請から、却下されたときの審査請求、さらには再審査請求まで労働者の皆さんをサポートします。下記リンク「相談したい」からお問い合わせください。
A 「通勤途中」とは
労働者が通勤中に負ったケガや発生した病気、死亡を「
通勤災害」と呼びます。
この通勤災害と認められるためには、
労災保険法施行規則第18条に定める、通勤による負傷に起因する疾病その他通勤に起因することの明らかな疾病であることが必要です。
1、通勤とは
労働者災害補償保険法第7条2項では、通勤の定義を次のように定めています。
通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一  住居と就業の場所との間の往復
二  厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三  第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
ア、「就業に関し」
移動行為が業務に就き又は業務を終えたことにより行われるものであるというように、移動行為が業務と密接な関連を持って行われることを要します。

イ、「合理的な経路及び方法」

移動に一般的に
労働者が用いるものと認められる経路及び手段を指します。経路については、定期券に表示され、あるいは会社に届け出ている経路及び通常これに代替すると考えられる経路等が合理的な経路となります。
方法については、通常用いられる交通手段は、
その労働者が普段用いているか否かを問わず一般的に合理的な方法と認められます。

ウ、「業務の性質を有するもの」
事業主が用意する送迎バスによる通勤、突発的事故等による緊急用務のための休日・休暇中の呼び出しに応ずるための予定外の緊急出勤等が該当します。

エ、「
厚生労働省令で定める就業の場所」

業務を開始し、又は終了する場所を指します。具体的には、
(1)適用事業及び労災保険任意適用事業にかかる就業の場所
(2)特別加入により労働者とみなされる中小事業主や一人親方にかかる就業の場所
(3)その他これらに類する場所

オ、「厚生労働省令で定める要件」
転勤により、一定の理由を以て配偶者・子・労働者の父母又は親族と別居し、単身赴任することになったことを指します。

2、通勤の逸脱・中断
同法第7条3項では、労働者が通勤の途中で「寄り道」した場合の扱いについて次のように定めています。
労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第二号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。
ア、「逸脱」
通勤途中に
就業・通勤とは関係ない目的で合理的経路をそれることを指します。
自動車通勤において、渋滞のため本来の経路をそれることは該当しませんが、理由なくわざわざ遠回りすることは逸脱に該当します。

イ、「中断」

通勤途中で
通勤とは関係のない行為を行うことを指します。
ただし、「
ささいな行為はその行為の最中も含めて、「日常生活上必要な行為はその行為の最中を除いては、逸脱や中断には該当しません

ウ、「ささいな行為」

通勤経路を大きく外れることなく、時間的にもさほど長くはないものとして、次の例が挙げられます。
(1)通勤経路の駅や通り道のコンビニのトイレを利用する場合
(2)通勤経路近くの公園で一休みする場合
(3)通勤経路上の店でタバコや新聞を購入する場合
(4)駅の構内でジュースを飲む場合
(5)通勤経路上の喫茶店で、喉が渇いたのでコーヒーを飲む場合
(6)通勤経路上でストリートミュージシャンを見物したり、手相を見てもらったりする場合
エ、「日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるもの」
労働者災害補償保険法施行規則第8条で次のものが挙げられています。
一  日用品の購入その他これに準ずる行為
二  職業訓練、学校教育法第一条 に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
三  選挙権の行使その他これに準ずる行為
四  病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
五  要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)
オ、逸脱・中断後の取り扱い
原則として、
通勤経路から逸脱し、又は移動を中断した場合には、その逸脱・中断以後の移動は通勤には認められません
例外として、ウに挙げた「ささいな行為」は逸脱・中断には該当しないため、その行為を含めて出発地から目的地までの移動全てが通勤として認められます。
また、エに挙げた「日常生活上必要な行為」は、合理的な経路を外れてその行為を行っている間は逸脱・中断として扱われますが、逸脱・中断の終了後、合理的な経路に戻った後の移動は通勤として認められます。

B 労災保険の給付
労災保険の給付体系は下図のようになっています。

各給付・事業につき、下記リンク先で詳しく説明します。

1、災害保険給付(負傷・疾病)    1-2、災害保険給付(介護・予防給付)

2、災害保険給付(死亡)    3、社会復帰促進事業・安全衛生確保等事業

4、被災労働者等援護事業
    5、労災保険給付の決まり

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