社会保険労務士 五藤事務所

                               労災保険の活用

5、労災保険給付の決まり
労災保険給付には、一定の決まりがあります。ここでは、特に年金支給に関する決まりに絞って説明していきます。
@ 年金の支給期間
1、支給期間
年金たる保険給付は、月を単位として支給し、支給すべき事由が
発生した月の翌月から、支給を受ける権利が消滅した月まで支給されます。

2、支給停止
年金たる保険給付は、その支給を停止すべき事由が生じたときは、その事由が
生じた月の翌月からその事由が消滅した月までは、支給が停止されます。

3、支払月日
年金は、
偶数月15日に、原則としてその前月及び前々月に支給された分が支払われます。
ただし、受給権が消滅した場合は、その月の年金は、本来の支給月ではない奇数月でも支払われます。

A 未支給の保険給付
1、労災保険の保険給付の受給権者が死亡した場合に、下記の未支給の保険給付が生じます。
(1)未請求の保険給付
(2)請求済でも支給未決定の保険給付
(3)支給決定済でも未払いの保険給付
下記の者は、これらの未支給の保険給付を請求することができます。
ア、遺族(補償)年金の受給権者が死亡した場合
→遺族(補償)年金の受給資格者のうち、
最先順位者
イ、ア以外の保険給付の受給権者が死亡した場合
→受給権者の死亡当時、死亡した受給権者と同一生計であった、配偶者(内縁含む)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹のうち、
最先順位者
2、請求手続
請求権者は、
自己の名で、各保険給付の請求書を労働基準監督署に提出しなければなりません。上記の最先順位者が複数いる場合は、その1人がした請求は全員のためにその全額についてしたものとみなされ、その1人に対してした給付は全員に対してしたものとみなされます。

B 保険給付の差し止め
政府は、保険給付の受給権者に、
・正当な理由なく保険給付に関する
書類を提出しない
・書類その他物件の提出をしない
・労働者及び受給権者が
報告・出頭等の命令に従わない
受診命令に従わない
といった事由があるときは、
保険給付の支払いを一時差し止めることができます。

C 社会保険との調整
労働者災害補償保険法に基づく休業(補償)給付又は年金たる保険給付と、国民年金法・厚生年金保険法に基づく障害・死亡を支給事由とする年金たる給付を併給できる場合は、
国民年金法・厚生年金保険法の給付を優先させ、労働者災害補償保険法の給付は下表の率を乗じた額に減額して支給されます。
国年+厚年 国民年金 厚生年金保険
休業(補償)給付
傷病(補償)年金
障害基礎年金
及び障害厚生年金
→労災の支給率0.73
障害基礎年金
→労災の支給率0.88
障害厚生年金
→労災の支給率0.86
障害(補償)年金 障害基礎年金
及び障害厚生年金
→労災の支給率0.73
障害基礎年金
→労災の支給率0.88
障害厚生年金
→労災の支給率0.83
遺族(補償)年金 遺族基礎年金
及び遺族厚生年金
→労災の支給率0.80
遺族基礎年金
又は寡婦年金
→労災の支給率0.88
遺族厚生年金
→労災の支給率0.84
D 第三者行為による災害の場合の支給調整
1、第三者行為による災害の届出
交通事故等、労働者に起こった災害に第三者の行為が関わっているときには、第三者行為による災害として、労働基準監督署に第三者行為災害届を提出しなければなりません。支給調整を適正に行うために必要なものであり、労災保険の給付に係る請求書と同時又は速やかに提出しなければなりません。
第三者行為災害届に添付すべき書類は下表のとおりです。
添付書類名 交通事故 それ以外 提出部数 備考
事故証明 必要 × 2通 自動車安全運転センター発行のもの
念書 必要 必要 2通  
示談書謄本 必要 必要 1通 示談が行われた場合(写しでも可)
損害賠償金等支払証明書
又は保険金支払通知書
必要 × 1通 仮渡金又は賠償金を受けている場合
(写しでも可)
死体検案書又は死亡診断書 必要 必要 1通 死亡の場合(写しでも可)
戸籍謄本 必要 必要 1通
2、支給調整
(1)政府からの保険給付が先の場合
求償
労災保険から給付が先に行われた場合は、被災労働者が第三者(加害者)に対して有する
損害賠償請求権を政府が代位取得して、政府から第三者に対して損害賠償請求(求償)を行います。よって、被災労働者は第三者から保険給付に関する損害賠償金を受け取ることはできません。

(2)第三者からの損害賠償が先の場合
控除
第三者からの損害賠償が先に行われた場合は、被災労働者が労災保険から受給するはずであった保険給付のうち、受けた損害賠償の価額を限度に保険給付を受給することができません。

(3)受給権者と第三者との間に示談が行われている場
下記のいずれも満たしている場合は、
労災保険からの保険給付は行われません
ア、示談が
真正に成立していること
イ、示談の内容が、受給権者が第三者に対して有する保険給付と同一の事由に基づく
損害賠償請求権の全部の補填を目的としていること

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