社会保険労務士 五藤事務所

                               労災保険の活用

2、災害保険給付(死亡)
死亡による災害保険給付は、遺族に対する被扶養の逸失利益の補填として遺族(補償)給付、葬祭の費用を補填する葬祭料の2つがあります。
@ 遺族(補償)給付
遺族補償給付は、原則として
年金として支給し、一定の場合に限り一時金が支給されます。
1、遺族(補償)年金
(1)支給要件
労働者が業務上又は通勤中の災害により死亡した場合、一定の遺族(=受給資格者)に、その者からの
請求に基づいて支給します。
ア、受給資格者
労働者の死亡当時、その収入によって
生計を維持されていた下表の者で、それぞれに付された年齢・障害の要件いずれかを満たす者に限られます。
遺族 年齢要件 障害要件
妻(内縁含む) なし なし
夫(内縁含む)・父母・祖父母 55歳以上 障害等級第5級以上又はこれと同等の障害の状態にあること
(以下、「一定の障害状態」という)
子・孫 18歳に達した年度の3月31日までの間にある
兄弟姉妹 55歳以上又は18歳に達した年度の3月31日までの間にある
イ、受給権者
遺族(補償)年金は、
受給資格者のうち最先順位者が受給します。この者を受給権者と言います。同順位者が2人以上いるときは、その全員が受給権者となります。受給資格者には下表のように優先順位が付けられています。
順位 遺族 労働者の死亡当時の要件
1 配偶者 無条件
60歳以上又は一定の障害状態
2 18歳に達した年度の3月31日までの間にある又は一定の障害状態
3 父母 60歳以上又は一定の障害状態
4 18歳に達した年度の3月31日までの間にある又は一定の障害状態
5 祖父母 60歳以上又は一定の障害状態
6 兄弟姉妹 18歳に達した年度の3月31日までの間にある又は60歳以上もしくは一定の障害状態
7 55歳以上60歳未満
年金の受給は60歳到達以後=若年支給停止
8 父母
9 祖父母
10 兄弟姉妹
(2)受給額
受給権者及びその者と同一生計の受給資格者の人数によって下表のように定められています。ただし、イの
若年支給停止の状態にある者は、人数に含みません
人数 年金額
1人 原則:給付基礎日額の153日分
例外:受給権者が妻で、55歳以上又は一定の障害状態にある者は給付基礎日額の175日分
2人 給付基礎日額の201日分
3人 給付基礎日額の223日分
4人 給付基礎日額の245日分
下記に該当するときは、該当することとなった月の翌月から遺族(補償)年金の額を改定します。
ア、遺族の人数に増減が生じたとき
イ、受給権者が妻であって、
同一生計の受給権者がいないときに、
(@)一定の障害状態にない妻が、
55歳になったとき(増額改定)
(A)55歳未満の妻が、一定の
障害状態になった(増額改定)又は一定の障害状態でなくなったとき(減額改定)
(3)請求手続
受給権者は、事業主の証明を受けた遺族補償年金支給請求書(様式第12号)又は遺族年金支給請求書(様式第16号の8)を労働基準監督署に提出します。
受給権者が複数いる場合は、遺族補償年金代表者選任(解任)届(年金様式第7号)を提出することにより代表を決めて請求手続を行い、支給される年金を受給権者間の合意の割合で分割します。
請求に必要な添付書類は次の通りです。
ア、 死亡診断書、死体検案書又は検視調書の写しなど、労働者の死亡の事実及び死亡の年月日を証明する書類
イ、 戸籍謄本、抄本など、請求人及び他の受給資格者と死亡労働者との身分関係を証明する書類
ウ、受給権者及び他の受給資格者が死亡労働者の収入によって生計を維持していたことを証明する書類
エ、 受給権者及び他の受給資格者のうち一定障害の状態にあることにより受給資格者である者については、診断書など労働者の死亡時から引き続き当該障害の状態にあることを証明する書類
オ、受給資格者のうち、受給権者と同一生計の者については、その事実を証明する書類
カ、障害の状態にある妻にあっては、診断書など労働者の死亡の時以後障害の状態にあったこと及びその障害の状態が生じ又はその事情がなくなった時を証明する書類

(3)年金給付基礎日額のスライド制と支給限度額
遺族(補償)年金にも、傷病(補償)年金や障害(補償)年金と同様、算定事由発生の翌々年度以後スライド制の適用があります。スライド制等の詳細はコチラからご覧ください。
一方、
支給限度額は算定事由発生当初から適用があります

(4)受給権の消滅
受給権者が次の事由に該当するに至ったときは、その者の受給権が消滅(失権)します。また、受給資格者についてはその者の受給資格が消滅(失格)します。
ア、死亡
イ、
婚姻(内縁を含む)
ウ、直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき
エ、離縁により死亡した労働者との親族関係が終了したとき
オ、子・孫・兄弟姉妹について、18歳に達した年度の3月31日が終了したとき(障害要件該当時を除く)
カ、一定の障害状態にある夫・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹について、一定の障害状態になくなったとき(年齢要件該当時を除く)
(5)転給
受給権者が失権して他に同順位者がいない場合、次順位者に受給権が移転
します。これを転給と言います。転給は受給資格者がいる限り繰り返されます。
次順位者は、転給の手続として、遺族(補償)年金転給等請求書(様式第13号)を労働基準監督署に提出します。
手続に必要な添付書類は次の通りです。
ア、戸籍謄本、抄本など、請求人及び請求人と同一生計の他の受給資格者と死亡労働者との身分関係を証明する書類
イ、請求人及び請求人と同一生計の他の受給資格者のうち一定障害の状態にあることにより受給資格者である者については、診断書など労働者の死亡時から引き続き当該障害の状態にあることを証明する書類
ウ、請求人と同一生計の受給資格者については、その事実を証明する書類

2 遺族(補償)年金前払一時金
障害(補償)年金同様、まとまった資金が必要になる場合を考慮し、前払い制度を設けてあります。
(1)支給要件
労働者の死亡当時、その収入によって
生計を維持されていた受給権者であること(若年支給停止者も請求できます)。
(2)支給額
給付基礎日額の、200日分、400日分、600日分、800日分、1,000日分のうち、受給権者が選択した額を、
同一事由に関し1回限り請求できます。
(3)請求手続
請求先はいずれも労働基準監督署で、
遺族(補償)年金前払一時金請求書(年金様式第1号)を提出します。
・原則:遺族(補償)年金の請求と
同時に行います。
・例外:遺族(補償)年金の
支給決定通知日の翌日から1年間は事後請求ができます。
(4)支給停止
遺族(補償)年金前払一時金が支給された場合には、
遺族(補償)年金は、各月に支給されるべき額(1年経過後は年5%の単利で割り引かれた額)の合計額が、前払一時金の額に達するまでの間、支給停止になります。


3、遺族(補償)一時金

(1)支給要件と支給額
最低保障額を
給付基礎日額の1,000日分として、下表のように定めています。
支給要件 支給額
@ 労働者の死亡当時、遺族(補償)年金の受給権者となる者がいないとき 給付基礎日額の1,000日分
A 遺族(補償)年金の受給権者が全て失権し、他に受給資格者がいない上、受給済の年金額と前払一時金の合計額が最低保障額に満たないとき 給付基礎日額の1,000日分から受給済の額を控除した額
(2)受給資格者と受給権者
下表の受給資格者のうち、最先順位者が受給権者となります。
受給順位 労働者の死亡当時の続柄 労働者の死亡時の
生計維持関係
1 配偶者 不問
2 生計維持関係あり
3 父母
4
5 祖父母
6 生計維持関係なし
7 父母
8
9 祖父母
10 兄弟姉妹 不問
(3)請求手続
受給権者は、遺族補償一時金請求書(様式第15号)又は遺族一時金支給請求書(様式第16号の9)を労働基準監督署に提出します。
請求に必要な書類は次の通りです。
ア、 請求人が死亡した労働者の収入によって生計を維持していた者である場合には、その事実を証明する書類
イ、 (1)支給要件@の場合の請求であるときには
(@)死亡診断書、死体検案書又は検視調書の写しなど、労働者の死亡の事実及び死亡の年月日を証明する書類
(A) 戸籍謄本、抄本など、請求人と死亡した労働者との身分関係を証明する書類
ウ、 (1)支給要件Aの場合の請求であるときには、上記(A)の書類


A 葬祭料(葬祭給付)
1、支給要件
死亡労働者の葬祭を行う者に対し、その請求に基づいて支給します。
「葬祭を行う者」は、必ずしも喪主など、葬祭を取り仕切る者であることはなく、葬祭を行うと認められる者であれば足ります。
また、葬祭を行う遺族がいないため死亡労働者の勤務先が葬祭を行った場合は勤務先に支給、遺族はいるが勤務先が恩恵的に葬祭を行った場合は遺族に支給されます。

2、支給額
次のいずれか高い方の額が支給されます。
ア、
315,000円+給付基礎日額の30日分
イ、
給付基礎日額の60日分

3、請求手続
葬祭を行う者は、葬祭料請求書(様式第16号)又は
葬祭給付請求書(様式第16号の10)を労働基準監督署に提出します。
このとき、遺族(補償)給付の請求とは別に請求を行う場合は、死亡診断書、死体検案書又は検視調書の写しなど、
労働者の死亡の事実及び死亡の年月日を証明する書類を添付することが必要です。

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